【空から】

むかし、産まれたその場で十歩あるいて天地を指差し「天上天下唯我独尊」と宣した人がいたそうですが、ふつうの人間は、生まれ出たときは、ほぼ無力。泣き叫んで自分の欲求をまわりに伝えるだけしかできません。

 

誕生したばかりの仔馬は、十分ほどで立ち上がり、数時間後にはもう走れるようになります。魚類や爬虫類はこの世に生まれたとたん親無しの場合が多いですし、昆虫もほぼ育児を必要としません。植物に至っては育児という概念すらありません。

 

生物というのは、脳神経が複雑になるほどに、育児に時間がかかります。

その最たるものは人間で、次世代を残す生殖可能状態になるまででも、10年ほどかかります。

赤ん坊の頃は、身の回りの世話をする大人がこの世界の全てであって、その世界は自分の言うがままになる、いわば全能の状態。しかし客観的に見れば、生き抜くための個体としての能力はまったく皆無で、さらに、複雑化した現代の文明社会において、ひとりで生きていくためには、20年でも足りない程にならんとしています。

 

何ゆえ運命周期が、「空」からスタートするのかの理由は、ここにあります。

 

「望」むまえに、まず個体としての存在が、確立されなければなりません。

 

生命は、育児、教育を受けることによって、動物や機械のように、自己の本能にのみ翻弄されて生きる「宿命」から脱し、自らの手で命を実行する、「運命」を操れるようになるのです。